「昔は良かった」のか…(第3回)

<研究室便り>

 昨年2月と今年1月に同じタイトルで書きました。今回は第3回です。
 数日前に大変面白い本に出会いました。9月7日の朝日新聞の書評欄で取り上げられていたのを見て、早速注文しました。その本は『江戸しぐさの正体』(原田実 星海社新書2014年8月)です。

 「江戸しぐさ」とは「江戸商人のリーダーたちが築き上げた、上に立つ者の行動哲学です。よき商人として、いかに生きるべきかという商人道で、人間関係を円滑にするための知恵でもありました。」(NPO法人江戸しぐさHP http://www.edoshigusa.org/)と言われているもので、「傘かしげ」(雨の日に互いの傘を外側に傾け、ぬれないようにすれ違うこと)、「こぶし腰浮かせ」(乗合船などで後から来る人のためにこぶし一つ分腰を浮かせて席を作ること)等がよく紹介されます。これはマナー啓発の広告に使われているだけではなく、文部科学省が作成した道徳教材『私たちの道徳 小学校5・6年』(58・59ページ)にも紹介されています。

 本書は、著者がこれまでウェッブ上で述べてきた内容を本にしたものだそうですが、要するに「江戸しぐさ」は江戸時代にあったものではなく、1980年代にある人物によって発明され、その後別の人物によって「精緻化」されて教育の世界に広まっていったというものです。
 本書では「江戸しぐさ」の内容を具体的に検討して、それが江戸時代のものではなく、近現代社会のマナーを過去に投影したものであることが示されています。

  私たちは過去を美化しがちです。もちろん残すべき文化や伝統はあります。しかし過去がすべて良かった訳ではありませんし、現在が全て悪い訳でもありません。
 学問はそのような現在と過去を正しく知るためにあるもので、教育はそれを子どもたちに伝えていくためのものです。道徳教育も、正しい歴史認識の上に立ったものでなければ意味がないと思います。
 個人的には、本書の内容について今後議論がおこることを期待しています。いずれにしても、歴史や教育に関心のある人には是非読んでみて頂きたい一冊です。

(TO)

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